2080-02ASDFが前線基地を取り戻してから2日。賢治達、運用実験部隊は前線から離れた昌吉基地へと帰還していた。 ここは現時点での運用実験部隊の本拠地となっており、テストのために様々な機材が運び込まれる場所である。 その基地の一角、格納庫の中で『デュラハン』が体操するようにマニピュレーターを動かしていた。 「どうかね、中尉」 デュラハンを見上げながら、技術者風の男が声をかける。 「反応は良好だ。予想以上に素晴らしい精度だな」 開け放たれているコックピットハッチから賢治が答えた。 コックピットの中で賢治が腕を動かすと、それに連動してデュラハンも同じ動きをする。 「慣れれば、そいつの腕で生卵を潰さずに割ることだってできるぞ」 「そう言われると、挑戦してみたくなるな」 「まあ、それは後でいいだろう。他にも改修があるから、一度降りてくれ」 「わかった」 賢治はデュラハンを停止し、腕に付けていた金属のフレームを外した。 「マスタースレーブシステムもなかなか良さそうだ。正直、使う前まではセミオート制御で十分だと思っていた」 「セミオートだと、入力されていない動作は出来ないからな。今のデュラハンなら、資材運搬から単独での装備換装までできる」 「それはありがたいね。…ではまた後で」 賢治は技術者に別れを告げ、格納庫を出た。 「よお、賢治。終わったか?」 賢治が兵舎に戻ろうとすると、髭を生やした士官が声をかけてきた。 「終わったよ、山本中尉。あのシステムはなかなか良さそうだ」 「そうか。俺の機体にも同じのが付く予定だが、お前がそう言うなら期待できそうだな。 ……所で、新型機の方は見たか?」 「いや、まだだ。しかし、俺達じゃないとすると、新型機には誰が乗るんだろうな」 「パイロットも新しく来るらしいぞ。到着は明日らしい」 「パイロットの補充もあるのか?大規模なテストでも予定されているのか」 賢治の知る限り、現在この部隊で人員が不足しているようなことはない。 それなのに人員を補充する意図がよく分からなかった。 「まあ、明日になればわかる事だ。そんな事より、時間があるなら新型を見に行かないか」 「そうだな。俺が乗ることはなくても、一応性能は知っておきたい」 「決まりだな」 賢治は来た道を戻り、山本と共に新型機のある第2格納庫へと向かった。 「これが新型か」 格納庫内には、真新しい強化外骨格が5機置かれていた。 「なんだお前ら。何しに来た」 強化外骨格の一つを整備していた老整備士が二人を怒鳴りつける。 そんな事を気にもせず、山本中尉は新型の元へと歩み寄った。 「よお、坂本の爺さん。ちょっと新型を見せてもらうぜ」 「……まあ見るだけならいいが、触るなよ」 坂本整備士は、渋々ながらも新型のコックピットを開放した。 「ありがとう、坂本さん」 そう言いながら、杉山も山本に続いて新型のコックピットに近づいた。 「ずいぶん狭いコックピットだな」 「ああ。俺じゃ乗れねぇな」 山本がシートの前で妙なポーズをしてみながら、苦笑する。 「おい、爺さん。これには子供でも乗るってのかい?」 「知らん。ワシは上の指示で調整しただけだ」 「まあ、爺さん程度に知らせる事じゃないよな」 「バカにしとるのか、お前は」 「あまりふざけて喧嘩するなよ。……マスタースレーブシステムが無いな」 狭いコックピット内には、両手を動かすスペースどころかセンサーを付ける余裕すらなさそうだ。 「ああ、そいつの駆動系はブレイン・コンピュータ・インターフェース操作だ」 「何、そんなのがあるのか?」 山本が興味深そうな表情を浮かべる。 ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)とは、脳波を読み取ってコンピュータを操作するためのシステムだ。 複雑な操作も、思考するだけで可能となるのだったら理想的な操作体系である。 山本が興味を示すのも無理はない。 「あるがね、お前らじゃ無理だ。訓練しないと使い物にならんよ」 「どれくらいかかる?」 「まあ、並の人間で半年だな」 坂本整備士が即答する。 「さすがにそんな期間を費やすのは面倒だな」 「だろう?」 まあ、山本中尉なら半年保たないだろうな、と賢治は思う。 「クロウラーが無いようだが、歩行機能だけか?」 「まさか。ホバーだよ、ジェットホバー」 「ホバーか……」 「また制御が難しいモノを……」 何がおかしいのか、坂本整備士は豪快に笑う。 「だからお前らの乗るモノじゃないんだよ。新しいパイロットはかなりのエリートだろうな」 「……まあ、明日が少し楽しみになった」 「ああ」 この機体を操縦できるパイロットが5人来る。 それが気にならないはずがない。 「さて、そろそろ行くか。今夜も出撃あるだろ?」 「ああ、そうだな」 二人は格納庫を後にした。 今夜もまた、強化外骨格が戦場を駆ける。 ジャンル別一覧
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